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尾瀬 秋紀行 アヤメ平と草紅葉の尾瀬ヶ原 
2012年10月8日

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秋の尾瀬、草紅葉を見たいと、夜発の日帰り格安旅行を探す。なんと、帰りの温泉付きで5500円。若くはないが、独身時代に夜行の急行で山やスキーに行った頃を思い出し挑戦だ。 装備は、雨具(雨風を防げるもの)、途中温かいものが作れるキャンプ用ガスバーナー、峠を登るので登山靴。5時ごろ着くのでヘッドランプも用意した。
 
 新宿を12時発のバス、途中仮眠をバスの中でとり、鳩待峠に5時に到着。このあたりは、冬の間、木地師の仕事場のあったところで春が近づくと鳩が峠に戻ってきて春を知らせてくれるという。鳩待という名の由来である。バスの中では眠れなかったが以外と元気、昨日は雨、今日は快晴になるという予報どうりの星空、寒くて上着と防寒具を持ってきて良かったとほっとする。外で火をおこして食事している悠長なハイカーは一人もいない、休憩所の人に外だったらいいですよと許可をもらう。これからはバーナーがあると旅が楽しくなる季節と。寒い外ではあるが、お湯をわかし味噌汁とおにぎりで朝食をすませる。最後にコーヒーで一服。周りの大勢の人たちは、灯りで照らしながら薄暗い中を山の鼻へ向かったようだ。私と同じ富士見コースへ登る人はいない。5:30少し明るくなりはじめた。ロッジの人に聞いてみると、峠に行く人は少ないという。なぜなのかそれ以上の情報はなく心細くなる。一人旅なので怪我でもしたら迷惑かけてしまうかもしれない。初めてのコースで登山の素人、体力が持つか不安もある。沼山峠からのコースは尾瀬沼にいく最短のコース、ここを探していたが人が集まらずツアーは中止に。大清水からのルートはコースが長いと断念して、鳩待峠からヨッピ橋の往復のメインコースで行くことにしていた。添乗員さんの話を聞いてアヤメ平のコースに行こうと計画を変更。それが一人旅の楽しみでもある。アヤメ平は、一昨年の6月に尾瀬ヶ原を訪れたときに湿原の復元に取り組んでいると聞いたことがある。行ってみたいという衝動に駆られる。アヤメ平は、高度が高いので他よりきっと紅葉がきれいだろう。鳩待峠が1500m、1900mの尾根のアヤメ平は、高度差は400m程ですぐ尾根へ行けるはずだと.。
アヤメ平と遠くに見える至仏山(しぶつさん)
5:50、休憩所の裏、みんなの行く方とは反対の登山口から出発。富士見峠まで6.3km、道は昨日の雨でぬかるんでいる。一気に尾根まで登っていく、ガレ場はなく急な斜面ではあるがどうにか行けそうだ。数十年ぶりの荷物を持っての登山、慣れないのか体力の低下か、ふらつくこともある。途中、老夫婦がゆっくり登っていくのに出会う。一人ではなかったと一安心。尾根に着くとなだらかな起伏があり木道が整備されている。昨日の冷え込みで木道に霜が、横の桟がないところは大変滑りやすい。桟が壊れているところもあり要注意。何度か転びそうになるのをふんばり、腰も変になりそうだ。ここで怪我をしたらという最初の不安がまたよぎってくる。引き返して下るのはもっと危ないと、気持ちを取り直し前に進む。ようやく人が少ないわけを知り納得。益々歩くのが慎重になる。所々に赤や黄金色の紅葉が顔を出している。気分転換に写真を撮りながら林をぬけると、急に開けたところに出る。6:50横田代に到着。尾瀬ヶ原を囲む遠くの山々が雲海の上に現れ、後ろには至仏山(しぶつさん)、高天原、天空の楽園を思わせる景色だ。だれもいない中でこんな景色を一人占めできる感激は、人にはなかなか理解できないものかもしれない。ときには変わり者と言われても仕方がない、だから来て良かったと、疲れなどふっとんでしまうようだ。休憩もとらず、転びそうになるのもスケートのように快く感じて、歩くのが軽快になってくる。田代(たしろ)、尾瀬では、湿原をこう呼んでいる。所々小さな池があり薄い氷がはっている。
 一端樹林帯を下り、また登ると、7:17、鳩待峠から4.3km歩き一番高い中原山(1968m)に到着。なだらかな丘が連なっている山で、どこが頂上かわからない。木道からは出られないので先を急ぐ。3人ほど登山者に出会う。私のような素人ではない。滑ったことなど言えそうにない。あいさつを交わしただけでもほっとする。周りの景色を楽しむ余裕が出てきて先へいそぐ。遠くの山々まで見えて、後で調べてみると白根山や富士山まで見えていたかもしれない澄み切った快晴。 7:37、30分ほど樹林帯を歩くと広々としたアヤメ平に到着する。アヤメ平は、1900mの一番高いところで、まさしく天空の楽園にふさわしく、木道が燧ヶ岳まで延びていくような不思議な感覚になる。ここは、戦後の尾瀬ブーム、その頃は、富士見峠のルートが主で、木道もなく、アヤメ平はハイカーによって無残な姿になってしまったそうだ。その復元に東京電力が取り組んできたことはあまり知られていない。数十年かけて取り組んでも、もとの姿にはほど遠いという。群馬県側の尾瀬は、東京電力の所有地であり、ダム建設を断念してからは、木道などの環境保護のための整備、環境教育に長年取り組んできたそうだ。そして、一万年の年月を経た尾瀬の姿がそのまま残されている。原発のことで忘れ去られないよう願うばかりである。 

アヤメ平から燧ヶ岳(ひうちがたけ)をのぞむ 湿原の再生 


アヤメ平は、広々として、後ろに至仏山、前に燧ヶ岳が顔を出し、初夏には、一面に高山植物が咲くという。そのころにまたこの天空の楽園に来てみたいと思いながら富士見峠へ向かう。アヤメ平と呼んでいるがアヤメはここには自生してない。黄色い花の咲くキンコウカの葉をアヤメと間違えて名前がついてしまったそうだ。




アヤメ平から富士見小屋に向かう木道より、遠くに赤城山が見えている


 アヤメ平から右の斜面を見下ろす木道が整備されている。後ろを振り返ると、眺めがまたすばらしい。斜面の黄色、赤、緑の混じった紅葉と遠くの山々、雲の上に顔を出している赤城山、このような景色を見ることができるとは知らずに来たので感激も一入、だれかに話そうにも一人旅の悲しさか。このときの思いをHPに載せることに。眼下に富士見小屋が紅葉の中に見えてくる。この風景がやっと峠を越えたという安堵の気持ちにしてくれる。急な下り坂の木道で滑らないように慎重に歩く。富士見小屋周辺は紅葉の真っ盛り、やはり一番早いかな。
 きれいなトイレも完備されゆっくり休憩をしたいが、途中にすばらしい景色を見つけた。そこは、尾瀬ヶ原(竜宮十字路)へ降りる長沢新道の降り口で、富士見小沼という。小さな沼に燧ヶ岳を写し、箱庭を思わせるような景色である。こんな小さな狭い風景の中に燧ヶ岳という雄大な自然を取り込んでしまう不思議さが何ともいえない。借景の庭園造りはこのような自然からうまれたのかもしれない。

ブナの樹林帯に入り、もうすぐ尾瀬ヶ原
富士見田代より燧ヶ岳、左に尾瀬ヶ原の竜宮十字路に降りる長沢新道
富士見田代の小沼で二組のハイカーに出会い一緒にしばらく眺めている。ここから竜宮十字路まで4.2Km,1800mから1400m尾瀬ヶ原に一気に下るコースである。富士見田代周辺は木道が整備されている。滑りやすいので慎重に歩く。木道を過ぎると急な難所にさしかかる。ゆっくり降りなければ不規則な岩と木の根でどこに足場を置くか分からなくなる。岩が不安定で足首や膝に負担がかかり、痛めてしまう心配もある。若い頃、奥穂高から前穂、上高地に降りたときも膝が耐えられなくて、その後の登山は丹沢、南アルプスのふもとの日向山に登ったくらいであった。下りは、どうしても気があせって膝に負担をかけてしまうので、だんだん膝が痛くなり出す。1時間ほど続くので捻挫や膝の靱帯を痛めかねない。ここが私にとって一番の難所であった。 そして。ようやくブナやダケカンバの樹林帯に入り、右にきれいな長沢の音が聞こえ一安心するが、尾瀬では熊の目撃情報があり、小熊には絶対近づかないようにと言われたのを思い出す。ブナ林の多い尾瀬は熊の生息地なのである。熊が目の前に現れたらどうしよう。山で猟犬に出会った時をを思い出し気持ちを奮い立たせる。登ってくるハイカーは少ないが、みんな熊よけの鈴を鳴らしている。ブナの紅葉も色づきダケカンバの紅葉が実にきれいだ。と気持ちを落ち着かせる。
 怪我もなく無事降りられたが、歩くのに膝が思うように上がらなくなる。


竜宮十字路より燧ヶ岳をのぞむ

牛首へ ヒツジグサの紅葉がきれい

 
木道にキベリタテハがじっと日向ぼっこをして翅(はね)を閉じてとまっている。タテハチョウが翅を閉じてとまるのは珍しい。触れると小豆色のベルベットのような光沢がある翅を開いて見せてくれる。翅に黄色い縁(キベリ)がある。光の反射で白く見えている。尾瀬の貴婦人にふさわしく堂々として逃げない。ハイカーに踏まれてしまいそうだ。逃げてーとちょっとだけ触てようやく草原へ飛び立つ木道で見つけた尾瀬を代表するカオジロトンボか?後でカオジロトンボは背中が赤いことがわかり残念。前の方から撮ればはっきりわかるトンボで群馬県の絶滅危惧種。調べて見ると高原の湿原で見られるトンボでムツアカネである。成熟すると雄が黒くなっていくという黒い赤トンボ?ハッチョウトンボという赤とんぼを小さくしたトンボ(絶滅危惧種)にもあえなかった。またいつか二つのトンボに会える楽しみを残しておこう。

キベリタテハ



氷河期の生き残りといわれる高原の湿原にいる ムツアカネ 雄

オヤマリンドウ






















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